2023年 01月 27日
新美南吉「うた時計」
本日は、新美南吉「うた時計」を朗読しております。
👦🧥⏱🦆🚲
この作品について、拙著で書いたものがありますので、その一部を紹介させていただきますね。
=牧野節子『子や孫に贈る童話100』(青弓社)第8章「言葉の力」より=
(前略)
作者の新美南吉は、「ごんぎつね」や「手袋を買いに」のお話でよく知られていますね。
「うた時計」とは、オルゴールのことです。
二月の野中の道で行き合った少年と、三十四、五の男の人。男の人が声をかけ、少年は人なつっこい笑顔で応え、二人は話し始めます。男の人は自分のことをあまり話しませんが、少年は「廉」という自分の名前やその意味など屈託なく話します。
少年は男の人のオーバーの大きなポケットを見て、「あったかい? 手を入れてもいい?」と聞きます。男の人は笑いながらうなずきます。ポケットのなかは、そんなに温かくはなく、なにかかたいものが入っていて、少年がさわると音楽が流れだしました。
男の人はびくっとして、きょろきょろあたりを見回します。美しい音色を奏でていたのは、ポケットのなかのうた時計でした。
少年は、自分がよく遊びにいく薬屋のおじさんの家にも、これと同じようなうた時計がある、と無邪気に話します。そして薬屋のおじさんがときどき口にしている息子のことも。
「不良少年になってね、学校がすむとどっかへ行っちゃったって」
それはもうずいぶん前のことなのだということでした。
やがて道が分かれているところに来て、ふたりは「さいなら」と別々の道を行きます。
けれどしばらくすると、男の人が遠くから少年を呼び止めます。もどった少年に、男の人は頼むのでした。じつは昨夜、薬屋で泊めてもらったのだけど、朝出るときあわてて、間違って薬屋の時計を持ってきてしまった。だから、薬屋に返してくれないか。うた時計とそれからこれもと、オーバーの内ポケットから懐中時計を出し、少年に手渡すのでした。
このあとの二人の会話を読むたびに、私はいつも胸がつまります。
「坊、なんて名だっけ」
「清廉潔白の廉だよ」
「うん、それだ、坊はその清廉……何だっけな」
「潔白だよ」
「うん、潔白、それでなくちゃいかんぞ。そういうりっぱな正直な大人になれよ。じゃ、ほんとにさいなら」
(中略)
極道の人生を歩んできてしまった男の人が、たどたどしく言う「清廉潔白」という言葉が心に染みます。親が子どもの名に込める思い、というのも伝わってくる作品です。
(後略)
新美南吉の作品はほかに、「二ひきの蛙」「飴だま」「木の祭り」「ひとつの火」「蟹のしょうばい」「去年の木」「子どものすきな神さま」も朗読しております。
あわせてお楽しみいただけましたら幸いです。
「牧野節子のYouTube部屋」
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よろしかったらどうぞおつきあいくださいませ(^-^)/🎵