2004年 10月 12日
星の王子さま
(ポーラ美術館の記事は、『音楽・美術』のカテゴリに入れてあります)
入口に虹色のシャボン玉が飛びかっています。星の王子さまの立像があります。
「わっ、王子さまだ。写真、写真!」
長女は、往きのロマンスカーの中で『星の王子さま』を読み切ったばかりなので、一番ノッていました。
ミュージアム全体がひとつの小さな街のようになっていて、点燈夫の広場、ウワバミの小径、天文学者通り……それぞれの広場や通りに、「星の王子さま」の登場人物の名前がついています。
サン=テグジュペリの一生を順に追っていくつくりになっている展示ホールには、実際に本人が着ていた軍用コートがあったり、彼が住んでいたアルゼンチン時代のオフィスや、『星の王子さま』を執筆したニューヨークのアパートの部屋が再現してあったりして、生きていた頃の彼のそばに、少しだけ近づくことができたような気がしました。
『星の王子さま』の世界的な成功を知らないまま、サン=テグジュペリは飛行機に乗って行方不明に……つまり空に消えてしまったわけですが、その最後は、作品『星の王子さま』のラストとシンクロしています。作者というものは、「私の人生はこの先、こうなるだろう……」という予感がして、そのような作品を書き残すのでしょうか。それとも、書いた作品に、自身の人生が引っぱられてしまう、というようなことがあるのでしょうか。
そんなことを考えながら、星の王子さまミュージアムを出る頃には、もう日も暮れかかっていました。すいたおなかを抱え、ホテルにチェックイン。
Hホテルの夕食は、フレンチジャポネのコースです。
メインディッシュの鴨肉を運んできてくれたギャルソンが声をかけてきました。
「ポーラ美術館にも、いらっしゃいましたね」
見上げると、あっ、美術館のカフェでケーキを運んできてくれた人ではありませんか。
「え? かけもちしていらっしゃるんですか」と思わず訊いてしまった私。
ポーラ美術館とHホテルの料理部門に同じ会社が入っているのです、というような説明を彼はしてくれました。
「あ、だから、どっちも美味しいんですね」
そう言うと、彼はにっこり。とても感じのいいギャルソンです。
イヴ・モンタン主演の『ギャルソン』という映画を思い出します。カフェの客とテーブルのあいだをきびきびと動いていくモンタンの姿が美しく魅力的で、地味だけどいい映画でした。
ちなみに前述の『ピカルディのバラ』は、モンタンが歌う曲です。二十年ほど前、中野サンプラザホール、来日したモンタンのコンサートにいきました。それ以来大好きになった歌です。決して古びはしない二人の恋の想い出を歌った、甘くせつなくあたたかな曲。
歌い手としても俳優としても、モンタンは超一流の職人でした。仕事をしている姿には、その人の人間性や生き方がにじみ出てくるものなのでしょうね。
美味な絵と、食に満たされ、超熟睡。
さて翌日は、前の日のアートモードはどこへやら。御殿場アウトレットまで足を伸ばし、すっかり買い物モードの女三人。
「わ、このセーター、30パーセント引き」
「こっちのジャケットは70パー引き!」
御殿場から見える富士山に目もくれず(?)掘り出し物を探し、ショッピングモールを一日じゅう歩きまわったのでした。
でも帰りの列車の中では、買った服を入れた紙袋は棚に乗せ、膝の上で「子どもの世界」展のカタログを開きます。そして《小さな職人たち》のページを繰りつつ、「いい仕事をする職人になりたいなあ……」と、しみじみ思う私なのでありました。
急に寒くなりましたね。
皆様、風邪などめしませぬよう、どうかお気をつけておすごしください。 10月12日